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函館地方裁判所 昭和38年(ワ)435号 判決 1963年11月25日

原告 加瀬谷寅雄

被告 函館地方検察庁検事 北村久弥

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

訴状によれば、本訴の請求の趣旨は、「被告が昭和三八年一〇月二一日の徴収命令書に基き刑事訴訟法第四九〇条の規定により函館地方裁判所執行吏小坂次郎に委任して昭和三八年一〇月三〇日原告所有の別紙目録記載の動産に対しなした強制執行はこれを許さない。訴訟費用は被告の負担とする。」との趣旨の判決を求めるにあり、その請求の原因の要旨は、被告は請求の趣旨掲記の強制執行(差押)をしたが、前記徴収命令書に記載された金一四三、〇三〇円は、昭和三五年九月一三日函館地方検察庁検事丸物彰から金一四四、一一〇円のうち原告において訴訟費用として現実に支払うべきものと決定された金一、〇八〇円を差引いた金額であつて、右金一四三、〇三〇円は、原告が昭和三五年八月二九日札幌高等検察庁検事長宛上申した結果、鑑定料であつて原告において支払う義務がないことが認められたのであるから、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める、というにある。

よつて考えるに、原告提出の徴収処分調書によれば、原告は、昭和三〇年一二月七日函館地方裁判所が言渡し、同三五年六月二三日確定した刑事事件の裁判により訴訟費用の負担を命ぜられ、検察官の徴収命令により原告主張の強制執行がなされるに至つたものであること明かであり、又原告が右徴収命令の執行力の排除を求めるものであるか(原告は訴訟物の価額を金一四三、〇三〇円としてこれに相当する印紙を貼用している)、具体的執行行為の取消を求めるものであるかは不明確であるが、いずれにしても本訴が民事訴訟法第五四五条の規定による訴であることは、前記請求の趣旨及び原因並びに訴状に請求異議の訴と表示されていることから見て明白である。

そして刑事訴訟法第四九〇条によれば、前記検察官の命令は執行力ある債務名義と同一の効力を有し、且その執行については民事訴訟に関する法令の規定を準用することとされているが、右執行は私法上の請求権を実現せしめるためのものではなく、又右命令に対しては刑事訴訟法第五〇二条により右命令の基本たる裁判を言渡した裁判所に対し異議の申立ができるのであるから、右命令による執行については、少くとも債務名義の執行力の排除に関する民事訴訟法第五四五条の規定は準用されないものと解するのが相当である。

よつて本訴は不適法な訴であつて、その欠缺を補正し得ない場合であると認められるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大西勝也)

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